清水大輔さんとのスペシャル対談

清水大輔さんをお招きする演奏会ということで、演奏会に先駆けて清水さんと団長セレン、指揮者の山田雅彦の3人でオンライン対談を行いました。

△3月の練習にて撮影。撮影時のみマスクを外していただきました。

対談では清水大輔さんご自身についてと今回演奏する楽曲についてお話しいただきました。

ーーー清水さんが作曲をしてみようと思いたった理由をお聞かせください。

清水:僕は中学校から吹奏楽を始めて、楽器はチューバだったんですが、中学生の時はコンクールに向けて楽しくやっていたんですけど、特に高校に入った頃ですかね。僕は人前で演奏することにすごく緊張する人間だったんです。でね、高校1年生、2年生と、コンクールのオーディションに落ちちゃったんです。それで、もう人前で演奏するのは多分、無理だなって諦めがあって。でも音楽は好きだったので、目立たずに音楽を続ける方法ってなんだろうと思った時に、作曲に出会ったわけです。

団長:ある意味一番目立ってはいますけどね笑

清水:表に出なくていいからね、でもやってみたら意外と表に出ることが多くて笑。演者になるのは今でも無理だなって思ってます。この職業を選んで正解だったなって。

山田:でも大学はピアノ科ですよね?

清水:…そう、それを突っ込まれるのが一番怖いんだけどね笑。もうホントにピアノの実技試験とか嫌だった。でも結局試験は試験だからなんとか頑張れたけど、ピアノを練習して人前でどうにかしようとは、もう全然考えてないですね。

団長:セレン吹では指揮者として出演いただきますが、もし「ピアノ弾いてくださいよ〜」なんて言ってたら…

清水:それは僕にとって死を意味します笑 。よく練習立ち会いで「清水さんここのメロディ弾いてください」とか言われたことあるんですけど、それでもブルッブルに震えてますから笑

山田:意外でした笑

ーーー清水さんが影響を受けた作曲家や作品はありますか?(団員からの質問)

清水:中学校1年生の時に聴いたジョン・ウィリアムズの「ジュラシックパーク」です。この感覚は未だに説明できないのですけど、ジョン・ウィリアムズの譜面ってどうやって楽譜に書いてあるんだろうってずっと思ってて。みんなドレミファソラシドを使ってるはずなのに、ジョン・ウィリアムズの音は魔法にかけられたような音がすると感じたんです。だけど楽譜を見ると普通の音符が書いてあって、ハーモニーがあって…、その当時は夢のような音がするスコアを書く人だなと。高校生になってからはフィリップ・スパークさんにはすごく影響を受けましたね。かっこいいし、吹奏楽の機能性をよく知ってらっしゃる方なので。作曲家という目線で言うと、ジョセフ・シュワントナーさん。僕が初めてお年玉で買った楽譜は「…そして山の姿はどこにもない」なんです。国立楽器っていう、国立駅に当時あった楽器屋さんで、今はウィンドギャラリーって言うのかな?そこにお年玉を持ってって、買いに行きましたね。

ーーー今回の選曲について

団長:指揮者の山田さんに難易度等確認しながら選曲していくのですが、意識してなかったけど今回の選曲が民族系になっていったというか。どうしてもやりたかったのは蒼氓愛歌だったんですよね。何がなんでもやろうって。

清水:団長さんはなんでそんなに蒼氓愛歌が好きなんですか?

団長:初めて聴いた時に、曲を通して自分の好きなメロディだったのと、中間部の激しい部分(2楽章『舞』)で変拍子の中、木管が馬鹿みたいに難しい動きをしてびっくりして、びっくりしたまま3楽章に入って、木管がキラキラしてみんなが一斉に違う動きをして何をやってるのか分からない中、ハンドベルが鳴り始めて、それにもビックリしてたらすっごい綺麗なメロディが流れて大団円で終わっていくっていうのが本当に好きで。元々そういう構成が好きだったので、そういう構成で清水さんが書かれた曲ってことで死ぬまでにやりたいとずっと思っていたんです。

清水:ありがとうございます。

団長:こちらこそ、素敵な曲をありがとうございました!

山田:この人今回の選曲に「マン・オン・ザ・ムーン」も入れようとしてたんですよ。

清水:それは…なかなかハードな…

団長:それだけ素敵な曲が多くてまだやり切れてないんです!!

ーーー音楽以外の趣味はありますか?

団長:お酒がお好きというのは伺ってますが、それ以外にはなにかありますか?

清水:本を読むことと映画観ることと…あ、全然関係ないけどレゴブロックは好きですね笑

山田:初めて聞きました笑

団長:曲を作るためのインプットを意識してではなく、あくまで個人としてお好きという感じですか?

清水:そうですね。作曲してる以外の時はできるだけそれを考えないようにしてます。本を読むのも映画を観るのも題材探ししてる訳じゃなくて、気付いた時に自分の1つのヒントになることはあるけれど、ただただ好きというだけです。

団長:その好きの中で、作曲に繋がることもあるということですか?

清水:そうですね、そういうこともあります。でもあまりリンクさせないようにはしてます。

ーーー清水さんはゲーム音楽はお聴きになりますか?

団長:当団はクラシックとゲーム音楽の両方を演奏する楽団なのですが、清水さんはゲーム音楽はお聴きになりますか?

清水:大好きですよ。やっぱりすぎやまこういちさん。小学生の時に僕が初めて買ったCDアルバムは『ドラゴンクエストIII』でしたね。初めて自分でお金を出して買ったのはそれでした。

団長:今度IIIのリメイク版も出ますよね。

清水:そうそう。でも僕はゲームの端末を持ってないから、情報だけしか知ることはできないんだよね。今作曲してる人ですぎやまさんに影響を受けてる人は多いんじゃないかな?

山田:多いですよね。

清水:すぎやまさんはクラシックの入り口として、間口を広げるためにそれをやろうとして、僕たちはその思惑通りになってますから。

山田:ドラクエもけっこうクラシックのオマージュが多いですよね。

清水:そうそう、ロマン派あたりまでのね、オーケストラに詳しくなっちゃう。原曲を知りたくなりますから。そういう窓口をすぎやまさんは広めた方だと思います。

山田:パッとバロック入れるのもすごいし、それを三和音の時代にやってるのがすごいですよね。

清水:そうそう。やっぱり影響されましたね。

ーーー今回のプログラムをみた時の感想はなにかありますか?

清水:山田くんはこういう選曲をしないだろうし、一体誰が選曲したんだろうと思いました笑

団長:私でございます…

清水:自分の曲を俯瞰で見るのは難しいので、ああこういう曲が好きなんだと見えつつも、自分が力を入れてる部分とかこういうのを分かってほしいんだと思っている部分を勘づいているというか。今回の選曲は僕のツボを押さえた選曲だなと思ってます。嬉しいです。

団長:自分の好きを詰め込むだけじゃ選曲はできないので、プログラムの重さや編成など色々考えました。まず第一に自分の好きな曲、というのが大前提であるのですが、僕が好きな曲っていうのはメロディがはっきり分かりやすい曲なんですね。セレン吹という団体は綺麗な曲が似合うなと思うのでそういう曲が増えたりだとか、色々パーツを組み合わせて今回のプログラムが出来上がったので、今回の選曲は気に入ってます。

清水:ほんと隅々まで聴いてくださってるなと思いました。僕自身は。

団長:第3回で清水さんの曲をやっていいよってなった時に、とにかくひたすら聴きました。プログラムも2,3回作り直してます。でもセレブレイトと阿美族と蒼氓愛歌は最初からずっとありました。

清水:阿美族は渋いよね。

団長:自分もよく見つけたなと思いました!

山田:僕が唯一知らない曲でしたもん。

清水:だって逆輸入するなんて初めてでしょ。台湾からって。

団長:僕が清水さんの曲を聴きすぎてYouTubeが勝手にオススメしてくれるようになって、その時に「なにこの曲!知らない」と思って聴いてみたら、めちゃめちゃ綺麗な曲で。ちょうど1部にクールダウンできるようなしっとり目の曲を探していたのですぐ採用して、山田さんに「輸入できる!?」って聞いて。できるよって言ってくれたのでやろうって。

清水:そうだったんですね。

団長:この曲って日本で演奏したことってあるんですか?

清水:台湾で初演した時にモデルバンドとして演奏したのは浜松開成中で、その曲は実は2楽章形式に分かれていたんですよ。台湾の出版社の意向としては、1楽章の静かな部分を課題曲として使って、今後演奏会で取り上げられるように後半に派手な部分をくっ付けてくれって言われて。そうしようって作ったら出版社の人が1楽章と2楽章をくっ付けて8分くらいあったやつをもっと短くしてくれって言われて、で、今回演奏する形になりました。なので、浜松開成中学校さんが演奏したバージョンは初期のバージョンなので、このバージョンを日本で演奏するのは初めてな気がしますね。

団長:広めたい気持ちもあるし、広めたくない気持ちもあるし笑。みんなにこの曲いい曲だよって知ってほしい気持ちはあるんですが…、ひっそり知っていたい気持ちもあって。大切にしていきたい曲になりました。

清水:ありがとうございます。

ーーー今回の曲の中で思い入れの強い曲があれば教えてください。

団長:これはいい思い入れでも悪い思い入れでもいいのですが、なにかあるでしょうか?

清水:結局全部の曲で思い出すのは、締切がヤバかったことですね笑。山田さんは絶対分かってくれると思うんだけど、締切がやばくなるといいアイデアが出てくるんだよね。追い込まれないと出てこないっていうか。

山田:締切1年後って言われてもやるの1か月前とか笑

清水:そうそう。

山田:それまであっためて、というか、半分忘れて笑

清水:あっためてとかカッコつけて言ってるけど、ギリギリまでそれを意識しないというか。例えば3ヶ月間期間があって、ほんとに考えるのは1ヶ月ですよね。それまでにタイトルとか断片的なこういうメロディを使おうとかそういうアイデアはでてくるんですけど、最後の詰めの部分は1ヶ月でぶわーっとやっていくというか。どの曲もそんな思い出はありますね。でもその中でも蒼氓愛歌はやばかったね。

団長:そうなんですね。

清水:3楽章が出来たのが本番の2週間前でしたから。

団長:えーっ

清水:あれは佐藤先生に怒られましたね。粘って粘って作っちゃったから…。

山田:あれは頭(1楽章)から作られたんですか?

清水:そうです。3楽章の「歌」に対して悩んでいて。どういう展開をさせて繰り返しのメロディに共感してもらえるかを考えました。音数も多いから持っていき方が難しくて。主題となるメロディはできていたのですが。この前練習していたNの部分とかさ、フリー演奏の部分で初めて(主題を)聴かせるっていう、あの案を思いつくまですごく悩みましたね。

団長:凄まじい密度じゃないですか。自分はフルートなので木管のことを話すと、曲を通してひたすら16分や32分音符、6連符7連符と戦う訳じゃないですか。その音数の量ってどこから出てくるんですか?特にフリーの部分ってみんな違う動きをしているじゃないですか。しかも細かい音符で…っていうのが。

清水:あれは1つ1つのフレーズをスケッチに書き留めておいて、ここに使おうあそこに使おうってしていたんですけど、これいっぺんに鳴らしてあのメロディが湧き上がってきたら面白いんじゃないかと当時思ったんですよね。1つ1つのフレーズはなにかのメロディで使おうと思っていたんですけどね。最終的にはそれを全部鳴らして、あのメロディが浮き出てくるという発想に落ち着いたんだと思います。

団長:いやもう最高です。多分僕はそれが心地よくて好きなんですよね。なので吹いてても苦ではないというか、どんな辛いこともこの曲のためならと思います。お陰で奏者としてのレベルも1段階上がったんじゃないかと思います。

ーーー今後どんな曲を作りたいか、曲に対する構想や夢はありますか?(団員からの質問)

清水:自分からアイデアが出るっていう曲は4,5年に1曲あればいいぐらいなもんなんですよね、僕の中では。自分の中の作曲って、人との出会いで「こういう曲ってないですかね?」とか「こういうスタイルの曲ってないですか?」とか、一つアイデアをもらうと作曲の作業が一気に楽しくなる瞬間があるんですよ。もちろん自分の中に書きたいものはあるにはあるんですが、僕はお題をいただいた方が作曲に打ち込みやすいんですよ。好きな曲書いてくださいって言われるのが一番時間かかっちゃうんです。ジョン・ウィリアムズさんのインタビューで「スピルバーグ監督の映画のアイデアによって、全然動いてなかった自分のメロディラインが動き出した瞬間が何度もあった」と仰っていたんです。だから共同作業者として演者が存在してくれることによって、僕のエンジンがかかるというか、パワーになっているのかなと思います。人との関わりは大切だなといつも思っています。だからこそ人とのつながりを大切にして、次に何を思いつくか分かりませんけど、書いていきたいなと思っています。

団長:ありがとうございます。私の夢の一つで、清水さんにセレン吹の曲を書いていただきたくって。それは今後、団の準備が整ったらお願いしたいと思っているのですが、セレン吹に曲を書いていただけるでしょうか?

清水:それはもちろん!

団長:もうすでにどんな曲にして欲しいかは割と固まっておりますので笑

山田:そうなんだ、それは知らなかった笑

団長:光とか宝石みたいな曲をグレード考えずに書いて欲しいなと思っています。

清水:それは一番危ないやつですよ笑

ーーー「セレブレイト」について。「祝典」をイメージされた曲ということですが、清水さんの中で「祝典」とはどんなイメージでしょうか。

団長:「セレブレイト」は、清水さんのプログラムをやるなら1曲目はこの曲しかありえない!と思って選曲したのですが、どんなイメージの曲なのでしょうか。僕の中では、ザ・オープニング、明るい!というイメージがあるのですが。

清水:この曲は自由演奏会で1日でみんなが集まって楽しく吹けるような曲だから、祝典っぽい曲がいいよねってことで書いたんです。その前の年に僕がジョン・ウィリアムズさんの演奏会「ボストンポップス」を聴きに行ったんですが、アメリカのオーケストラってキャッチフレーズを毎年決めることが多いんです。それで2000年のシーズンが「セレブレイト」っていうキャッチフレーズだったんです。ミレニアムっていう意味だったと思うんですけど、僕は「セレブレイト」という言葉がすごく心に残っていて、「祝典の曲を」という風にオーダーいただいた時に、このタイトルで曲を書こうって思ったんです。書いたのは翌年の2001年だったんですけど、ミレニアムを意識した「祝典」だったのかなと当時書いていた時はそう思っていたと思います。

団長:僕の大好きな分かりやすくてキラキラしたメロディが詰め込まれている曲なので、大好きな曲です。僕がフルート奏者なので感じるのですが、割とブリッジブリッジでフルートに美味しいところがくるじゃないですか。ソロのような。あれは意図的にフルートを配置したんですか?

清水:意識はしていないと思うのですが…。その当時影響を受けていた書き方を真似ていたんじゃないかと思います。今出版されているバージョンは出版の際に僕が書き換えているんですけど、初演の時は途中で速くならないし、最後で遅くもならないし、中間部の遅いまま終わるんです。中間部のメロディも色々違って、直筆の譜面を見ると当時とは割と違う形になっています。なので作曲した当時とは違う形にはなっているのですが、今出ているバージョンが僕の中の「祝典」の最良の形なんじゃないかと思います。

山田:この曲ってスウェアリンジェンとかそういう意識もありますか?

清水:そうそう、僕は当時吹奏楽を書く時に、その形式っていうのはスウェアリンジェンやバーンズが全てだと思っていたから。

山田:そうですよね、その部分についてすごく聞きたかったんですよ。アルバマーというか。

清水:速い遅い速いが吹奏楽だと思ってたの。当時まだ日本の作曲家はあんまりいなかったし、(楽譜が)出ているのは知っていたけど音源もあまりなかったから、どういうものか分からなかったんだよね。

団長:でもその分かりやすさがこの曲の魅力でもあると思います。これからも何かにつけて「セレブレイト」は演奏していこうと思っています。

清水:ありがとうございます。

山田:この曲の裏話というか、この団の裏話なんですけど、「セレブレイト」の譜面は団長の私物なんですよ。どこかでやろうと譜面を買ってそのままあっためていたみたいです。

団長:7,8年くらいあっためてましたね。たまに譜面を見ながら、綺麗な曲だなって思いながら過ごしてました。やっと日の目を見ることができて嬉しいです。

清水:それはありがたいです。

ーーー「阿美族民幻想曲」について。練習に来ていただいた時に、実際に阿美族の方と交流されたと仰っていましたが、その時のことをもう少しお聞きしたいです。

清水:2019年に阿美族のお祭りがあるから実際に見て欲しいと言われて行きました。原住民の方がやられている民宿に泊まったんですけど、ちょうどその期間に僕の誕生日があって、原住民の家系の方達が僕の誕生日パーティーをしてくれたんです。僕はちょっと潔癖なところがあるんですが、当時はこんな情勢でもなかったから、色々とすごい体験をさせていただきました。本当に刺激的な5日間だったんですが、帰国する前日に阿美族のお祭りに連れて行ってもらって、本当に衝撃を受けました。3時間くらいその場に居たんですけど、延々に歌い続けていて、終わらないエコーというか。民族の長みたいな人が竹で一人一人にお酒を飲ませるんですよね。で、延々酔い続けながら24時間その歌を歌い続けるっていうお祭りで、衝撃的な経験でした。本当にいい経験をさせていただきました。やっぱり体感するって大切ですよね。インターネットで情報は出てくるけど、体感すると全然違います。

団長:何も知らずにこの曲を聴くと、ああ綺麗な曲だな、民族曲な感じだな、で終わってしまいますけど、裏話を聞くと清水さんの壮大な想いが詰まっている曲だなと思いますね。

清水:そうですね、壮大な経験をさせていただきました。

山田:後半の12/8拍子のところはさっき仰っていた2楽章の部分だと思うのですが、結構アメリカっぽい感じですよね。

清水:そこからは変奏というか、もう少し自分っぽくしようと思った部分ですね。最初の部分は本当に阿美族の方がお祭りで酒を回し飲みしている時の歌そのままで、2楽章は変奏なので、全体としては変奏曲っぽいですよね。

山田:追いかけるところの音価も倍になるとか、変化がありますよね。

清水:そうそう。みんな酔っぱらってるから歌う速度も違うし、歌う節も違うし。前半は本当に現地の感じを表しています。

団長:最初の木管の掛け合いが素敵なんですよね。

清水:現地の実際の感じを知るとさらに面白さがわかると思います。

団長:色々お話を伺うと、日本の方達にもこの曲をさらに知ってもらいたくなりました。団員の中でもこの曲を好きになる人が多くて、選曲してよかったなと思っています。

清水:僕としても嬉しいです。

団長:ぜひみなさんに台湾から輸入してもらって笑

ーーー「儀式と祭礼」について。架空の民族の一日を描いた曲ということですがなぜ最後はあの和音を選んだのでしょうか?

団長:僕は和音のことはよくわかっていないのですが、あれは何か特別な和音なんですか?

清水:いや、単純に民族がまた新しい朝を迎えるからあのハーモニーで終わって、また冒頭に戻るっていうことですね。

団長:ふんわり終わるというか、スパッと終わる感じではないというか。

清水:ある民族といっても固定はしていないですけど、夜が終わってまた朝が来たら冒頭のメロディを歌い出すという自分の想いの中で、最後はあの和音で終わらせるという気持ちがありましたね。

団長:それが今回の演奏会の第2部につながっていくというか。裏話なのですが、実は最初、1部の最後は蒼氓愛歌だったんです。僕のプログラムの組み立て方で、1部の最後にその日のメインを持ってくるというイメージがあって。でも今回山田さんから蒼氓愛歌を2部の最後にして、1部最後を儀式と祭礼にしたら?っていうアドバイスをいただいたんです。それが結果的にいい感じになったなと思います。

清水:インターミッションを越えて次に繋がる感じは見えますよね。

団長:そういった思いがあると聞くと、曲順を変えてよかったなと思いますね。ところで架空の民族とありますけど、あったかい地域に住んでる民族なのか寒い地域なのかとか、文明のレベルがどれくらいとか、清水さんは具体的にイメージされていたんですか?

清水:細かいですね笑

団長:僕はマサイ族みたいなイメージだったんですが…

清水:そうですね。そっち系ですよね。民族音楽の中でもアフリカの音楽って、民族によって全然違うんですよね。ただ、コミニュケーションツールとして音楽が存在しているっていうのがアフリカの民族音楽の面白いところだと僕は思っていて、それで会話をするっていうのが日本というか、アジアにもほぼない文化なので、それはイメージして作曲していましたね。

山田:打楽器がジャンベ・カホンっていうのも、ボンゴ・コンガではなく敢えてっていうことなんですか?

清水:そうですね。シンプルな打楽器をイメージしたのかもしれません。

団長:今回完全版を演奏させていただくんですが、完全版で追加されたあの部分がすごく好きで。特別難しいことをしてるわけじゃないけど沁みるというか。綺麗で。

清水:嬉しいです、ありがとうございます。

ーーー「夢のような庭」の冒頭の演出について

団長:あの演出が全てを物語るように思うのですが、あれはこうしてくださいって言われたのか、清水さんが思い立って作られたのか、どちらなのでしょうか?

清水:これは完璧に代表の金井信之さんという大阪フィルハーモニーのクラリネット奏者の方からのオーダーでした。この曲は5月に初演させていただいたんですが、静岡かどこかのアンコンの審査で金井さんとご一緒させていただいた時に「清水大輔さんですよね?」って言われて、はい。って。「頑張ってますね、ところでなにわ《オーケストラル》ウインズっていう楽団知ってますか?」って言われて。もちろん、CDとか出されてますよねって言ったら「曲書きません?」っていきなり言われたんですよ。え?!って。だって、丸谷先生とか有名な先生が振られてるあの楽団ですよねって。しかも、全員プロの奏者で。「清水さんにはオープナーを書いてもらいたいんです」って。僕にとったら突然の話で、(初演まで)4,5ヶ月前で、正直書き上がるかどうか不安があったんです。「僕らが書いて欲しい曲の内容は全部伝えますから、オーダーは固まっているので、そういう曲を書いて欲しいんです。3月までに」って、その時もう1月で書き上げ始めないと間に合わない時だったのですが笑。それで書き始めて、僕が初稿で出した曲は「夢のような庭」っていうタイトルじゃなくて「Welcome to the Imagination World」っていう英題を提出したんです。最初はオーボエのAから始まって色んな楽器が練習してるような感じを全部楽譜に起こしたんです。その譜面はめちゃめちゃ苦労して書いて、曲全体を書いている時間の半分くらいを使ったのに、「なにわはチューニングはしないので使えません」って言われて。「なにわは少しずつ人が集まって気付いたら曲になるっていう感じがいいんですよね」っていう風に言われて、結局そのやりとりを15回くらい繰り返したから、15バージョンくらいあるんですよ。曲が始まってからは”そんなに”悪くないって言われて、”そんなに”ってなんだろうと思ってたんですけど、エンディングの終わり方にもう少しファンファーレが欲しいっていう風に言われて、それも最後に変えて。で、曲はOK出たんですけど、次はタイトルが分かりづらいって言われて、「なにわ」をタイトルに入れてほしいって言われたんですよ。でも僕は英題でインスピレーションを受けて考えていましたし、困ってしまって妻に「なんかいいタイトルない?」って言って、妻が考えてくれたんですよ「夢のような庭」って。本当は僕が考えたわけではないので、著作権の半分は奥さんに払わないといけないんじゃないかって思ってます。笑

団長:…これは対談ページに載せていい内容ですか?笑

清水:いやもう問題的な発言はしていないので笑

団長:すごく衝撃的な内容でした。

清水:もう本当に間に合わなくて、タイトルは妻に考えてもらいました。

団長:でもすごく曲にドンピシャというか。

清水:オシャレですよね。「なにわ」もはっきり文字としては見えないし。ひらがなにして「ゆめのよう、なにわ」って句読点を打つと見えてくるけれど。「夢のような庭」だとホールみたいに感じられますし、ナイスアイデア!と思いましたね。

団長:先ほども「セレブレイト」でタイトルについての裏話を聞かせていただきましたが、清水さんは先にタイトルを決めるのか、曲を書き上げてからタイトルを決めるのか、どちらでしょうか。

清水:僕は基本的に後からタイトルをつけることはないですね。タイトルと構成を先に決めてから書き始めます。

団長:今回の「なにわ」みたいな少しひねったような、ちょっと好きなんだよな。みたいなものってありますか?

清水:それこそ「蒼氓愛歌」ですかね。これは私が考えましたよ!

団長:造語の「蒼氓愛歌」ですね。笑

清水:僕は山下達郎さんの「蒼氓」って曲が大好きで、その当時なんで山下達郎さんは「蒼氓」って言葉を使ったんだろうと色々考えて。大震災があった直後で、その翌年に初演の曲だったので、人種とか国とかの枠を超えた「言葉」として「蒼氓」と。それに僕は「愛歌」という言葉をくっつけて「蒼氓愛歌」と考えました。これはもう、思い出深い曲ですね。

団長:「蒼氓愛歌」っていう響き大好きです。この曲についてはこの後たっぷり聞かせていただきたいです。

山田:タイトルの話で「夢のような庭」ってタイトルから、なんで「Welcome to the Imagination World」っていう副題なんですか?って聞こうと思ってたんですけど、さっきのあの話だったので笑。清水さんは先にタイトルを決めてから曲を書かれるっていうことだったんで、英題で曲を書いたってことですよね。

清水:そうです。だから夢のような「庭」っていうのも合致しているんだよね。なにわのコンサートホールに来ると想像の世界へ連れっててくれるような気がして僕は英題をつけたんだけど、まさに奥さんがいい邦題をつけてくれました。

山田:ディズニーっぽいタイトルですよね。

清水:外国の方に「World」がホールのことだとリンクしてもらえたのが嬉しかったですね。この曲を演奏してくれたアメリカの方から連絡をいただいた時に、「World」がホールのことだと分かっていただけたんです。邦題だと外国の方にはあまり伝わらないから、英題が日本語とリンクしているのが嬉しいなと思いました。

団長:この曲は一聴すると綺麗な曲で演出も面白くて演奏会のピースとしてとてもいい曲だと思うのですが、はちゃめちゃに難しいですよね。

清水:演奏する人がプロの人だったからね。正直出版されるとは思っていなかったので、なにわ《オーケストラル》ウィンズの最高のオープニングとして全てのオーダーを聞き入れた感じの曲で、これがこんなに演奏されるとは思っていなかったですね。難しいのに。

団長:僕は木管なので、木管のことしかわからないのですが、音が細かいし調号も多いし、たくさん転調もするし、めちゃめちゃ大変だなと思います。でもそれがこの曲の「Imagination」な部分を作っているのかなと思います。

清水:あとは入りのタイミングを間違えないようにしないとね。

団長:いやもうオーラ全開で登場していただけたら。お客さんも団員もみんな嬉しいと思います。

ーーー「ネバーランドの冒険物語」について。めまぐるしい展開がある曲ですが、何か作曲する上で気をつけたことや心がけたことはありますか?

清水:これは香港のウィンターバンドフェスティバルっていう、アジアの方々が参加する交流会みたいなものなんですけど、その課題曲として書いたものです。音域は制約があったんですが、あとはできるだけ子どもたちがとっつきやすい内容であれば、と言われて。これは3拍子の曲なんですけど、聴いてみたらみんな3拍子の置き方が違うんですよ。頭に置くバンドや3拍目に置くバンドもあって、フレージングを生かすというか。指導者のやり方もあるんでしょうけど、3拍子の取り方にお国柄が出ていたのがすごく面白かったです。日本人もあんまり3拍子は得意じゃないですけど、別にワルツっていう意味で3拍子にしたわけではないので、3拍子を皆さんがどう演奏するのかが楽しみで、当時はこのメロディを作った気がします。これも締め切りが大変で笑。それで「めまぐるしい」って言われたけど、日本とは違って1つのバンドに20分くらい持ち時間があって、6,7分でしっかり起承転結がある曲を書いてほしいって言われたので、こういう曲調になりました。

団長:ジェットコースターみたいって団員の誰かも言っていました。

清水:マレーシアの中学生も「ジェットコースターに乗ってるみたい」って全く同じこと言ってましたよ。すごく嬉しかったです。

団長:本当にピッタリですよね。急にテンポが変わるし急ブレーキ、急上昇っていう感じがまさにそんな感じで。選曲の裏話なんですけど、どうしても難易度が易しい曲を入れなければいけなくて、この曲を選んだんです。意外と難しかったですね。

山田:楽譜は簡単なんですけど、テンポ変化というか曲調の変化が難しいですよね。めまぐるしいので。

団長:手放しでは吹けないですよね。

山田:意外としっかり合奏しましたね。でも演奏していてすごく楽しい曲です。さっき聴いたメロディが違う色で出てくるのがすごく好きなので、同じメロディがころころと曲調を変えて出てくるのがすごくいいなと思います。

清水:子どもたちが演奏するので、できるだけ素材は限定して、それを変奏して使う方が思い出にも残るかなと思って作りましたね。

山田:中学生向けの曲ですが、大人が演奏しても大人が演奏するなりにやりこみ要素の多い譜面なので、すごくいい曲だと思います。

ーーー団長の大好きな「蒼氓愛歌〜三つの異なる表現で〜」について

団長:これは広報の人が感じたことだと思うのですが、清水さんの不思議な拍子感覚のルーツってありますか?という質問が来ています。

清水:この曲の依頼を受けた時にまず「3楽章の小組曲であること」と「1楽章はファンファーレっぽい曲、2楽章は打楽器が活躍する曲、3楽章は壮大な歌を」感動する曲にしてほしいって言われて、それを元に考えたんですけど、あの年はいろんな意味で大変な年だったので、そのオーダーの中にできるだけ自分らしい思いを込めようって考えて書きました。割と1,2楽章は淡々と書けたのですが、3楽章にどう繋げようっていうところでとっても時間がかかって。2楽章は「舞」「dance」だから、あのコード進行はマイケル・ジャクソンの「スリラー」の最後のパイプオルガンのコード進行そのままなんですよね。

団長:へー!

山田:知らなかったです。

清水:木管の細かいメロディのコード進行はそのまま引用しています。で、そういうアイデアチックなものは1,2楽章で考えたんだけど、最後の歌にどう繋げるかっていうのは最後まで悩んでいました。変拍子と言われているけれど、マイケル・ジャクソンは全部4/4拍子でとっているんだけど、節を拍子に当てはめようとすると4/4拍子じゃないところばっかりなんですよね。4/4拍子の4拍目の裏裏で次にいったりとか。それを拍子化したらああいう拍子感になるんじゃないかなって、当時は考えて作ったんだと思います。そういう風に自分のアイデアは入れ込もうと考えていたので、1楽章で最後にピッコロが3楽章のメロディを演奏するところがありますが、最初は空白だったんです。1楽章と3楽章をリンクさせようと考えていたので、ピッコロで3楽章のメロディを演奏して頭の片隅に置いて、3楽章でしっかり出てくるっていう。だから1,2楽章の変拍子っていうのは、マイケル・ジャクソンのビートの感じを変拍子にしたという感じですかね。

団長:すごく貴重なお話が聞けました。まさかここでマイケル・ジャクソンの話が出てくるとは思わなかったです。このお話ってどこかでお話しされたことはあるのでしょうか。

清水:ちょうどコロナが始まった年に指揮者の大井剛史さんがニコニコ動画で作曲家とミーティングするっていう企画をしたんですよ。それは有料だったのであんまり聴いている人は多くないと思うのですが。

団長:そこでお話しされていたんですね。「蒼氓愛歌」の最後は「歌」ですが、歌詞をつけるならどんな歌詞にしますか、との質問も来ているのですが、これに歌詞ってあるんですか?

清水:スクールバンドの方が演奏してくれた後に、いろいろな歌詞を送ってくれて、感動しましたね。自分自身は歌詞なんて考えていなかったけど、こういう想いを持っているんだなと感じて、すごく嬉しかったですね。

団長:コンクールあるあるですよね。僕としては歌詞がないコーラスのような形がしっくりきていて歌い切る感じなのかなと思っていました。

清水:みんなで何かを作り上げる時に歌詞をつける、たとえば課題曲のマーチに歌詞をつけるとかよくあるじゃないですか、そういう形の一種だと思うのですが、やっぱり自分の曲にそういう風に歌詞をつけてもらえるのは嬉しいですね。そういうイメージを持ちながら演奏してくださっているんだっていうのがすごく分かって嬉しかったです。僕自身は歌詞は考えていなかったんですけどね。

団長:歌詞の話で少し話が戻ってしまうのですが「阿美族」の冒頭の、木管の16分のメロディが「メリット」の「リンスのいらない」のCMに似ていると思ってから、そういう風にしか聞こえなくなってしまって。

清水:あ〜確かに。似てる似てる。

団長:リンスのいらないリンスのいらない〜♩って

清水:そうだよね!あともう一箇所、タラッタラッタラッて部分、あれはチョコボールみたいだよね。

山田:その話もしてました笑

清水:結局日本の覚えやすいメロディってヨナ抜き進行だから通じているんだよね。

団長:やっぱりそういうのはありますよね。

清水:でもこれは書いた後に気付いたの。台湾の人は誰もチョコボールのCMを知らないから誰も気付かないけど、僕だけ分かっちゃうから。

団長:ピッコロ奏者の人が教えてくれたんですけど、あれって結構静かな場面なのにそれを聞いてから元気になっちゃうんですよね。でもご本人もそう思っているんだって知れて嬉しかったです。

ーーー観客に向けて何かお言葉をください。

清水:コロナ前にこういう企画を頂いていて、同じような質問をされたとしたら、全然違う答えを出していたと思います。人と繋がることすら尊い時代になってしまったので、まずお客さんが聴いてくださること、会場まで足を運んでくださることに対して感謝しかないです。もちろんそのために、団員の方たちが宣伝をして、こういう企画を組んでくれることに対しても。自分は作曲をすることが仕事だと思っていたけど、でも、こういう風に人と繋がること、そういう人たちに支えられて自分は生きていると、(コロナ禍になって)3年目に入りますけど今まで以上に強く思うようになりました。まず聴きに来てくださった方やこの演奏会に興味をもってくださった方々と、ちょっとでも繋がれる機会になればと思っています。自分自身もこんな機会を頂けたからこそ、もっともっと人と繋がり、色んなことを共有できる場を増やせればなと思います。なにを共有したいかと言ったら、やっぱり楽しいとか、非日常的な空間を一緒に体感できることが大切なことだと思うので、そういうものを一緒に体感できる時間にしたいです。